
作品名 : | 長屋王残照記 |
漫画家 : | 里中満智子 |
出版 : | 単行本全3巻 (徳間書店 1991/講談社2013) 文庫本全2巻 (中央公論新社 1998) 大判全3巻 (里中プロダクション 2015/11) |
ジャンル: | 歴史モノ 古代 |
トーン : | シリアス |
関連作 : | 天上の虹 |
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[あらすじ]
高貴な血筋と政治家としての手腕を発揮し、天皇からの信頼も厚く、若くして、政界の中枢を担っていた長屋王。しかし、権力の拡大を図っていた藤原不比等やその一族から疎まれ、それが大きな悲劇をうんでしまう……。日本漫画界の大家、里中満智子先生が「長屋王の変」を描く日本歴史漫画『長屋王残照記』です。
[感想]
天武天皇の息子・高市皇子を父に持ち、天智天皇の娘・御名部皇女を母に持つ長屋王の物語。正妃は阿閇皇太妃(元明天皇)の娘・吉備皇女。
高貴な血筋と政治家としての才気ゆえに藤原不比等とその一族に疎まれ、藤原家と深くつながる首皇太子(聖武天皇)が天皇になったことで彼らとの確執が深まり、非業の最期を遂げる長屋王。
歴史の教科書では「長屋王の変」として知られる政変までの紆余曲折を長屋王の生き様と彼をめぐる人々を中心に描いた歴史漫画。
藤原家の台頭を許したのは不比等のしたたかな政治手腕だけでなく、皇位継承者不足が深刻化していたことも関係していたようですね。草壁皇太子、珂瑠皇子(文武天皇)といずれも病弱で短命。
そんな中、藤原家の台頭を阻止するために女性皇族が立ち上がったというのがこの時代のユニークなところ。草壁皇太子の正妃・阿閇皇太妃(元明天皇)とその娘の氷高皇女(元正天皇)が相次いで天皇位に就いて皇族中心の政治体制を維持しようと奮闘する姿がドラマチックに描かれています。
長屋王はそんな両天皇(義母・義姉)を支え、次の天皇に目されていた才気あふれる人物だったのに、生真面目で清廉潔白な性格ゆえに藤原家に疎まれ・・・。
「長屋王の変」を冤罪とする立場から描かれた物語になっていて、不比等の血を引く聖武天皇が藤原家の陰謀によって伯母の元正天皇を疎ましく感じ、叔父の長屋王に不信感を募らせていく構図になっています。
不比等の息子の藤原四兄弟は野心家の俗物として描かれ、対極に位置する長屋王、正妃の吉備皇女、義母の元明天皇、義姉の元正天皇との対比がありありと演出されながら圧巻のラストを迎えます。
女性漫画家の中には歴史上の人物の伝記を描くにあたり、正妃との純愛を強調するために側室の存在を完全にスルーする人が少なからずいますが、里中さんは史実に基づいて側室との関係に触れています。
不比等の娘で長屋王の側室になった長娥子は、凛とした美しい吉備皇女に比べると地味だけど人間味のある一途な女性として描かれています。
長屋王と吉備皇女の最期は悲しくも美しく、読む者を圧倒する演出に引き込まれました。
最後にその後の政局についても少し触れられています。
長屋王の死から6年、天然痘で藤原四兄弟が相次いで病死。 人々は長屋王のたたりだと噂したのだとか。
長屋王の直系を滅亡させた藤原四兄弟がその後相次いで亡くなっていたのは驚きでした。てっきり、不比等から息子たち、その孫へと藤原家は順調に繁栄していったのかと思っていたので。でもこの4家は断絶することなく後の時代に栄華を極めているので、不比等の野望は果たされたわけですね。

