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2022年7月15日金曜日

里中満智子『女帝の手記』全5巻ネタバレ感想


作品名 : 女帝の手記
漫画家 : 里中満智子
出版  : 全5巻
中央公論新社 1998/2
里中プロダクション 2014/1/23
講談社 2015/3
ジャンル: 歴史モノ 古代
トーン : シリアス
関連作   : 長屋王残照記
天上の虹
試し読み: 女帝の手記

[あらすじ]
奈良時代、阿倍内親王は父親に聖武天皇、母親に光明皇后をもつ皇女であった。歴史的に史上唯一、立太子し、女性皇太子となった阿倍は、のちに孝謙天皇、重祚して称徳天皇になった女帝である。波乱の時代、彼女が独身を貫きながら、二度も天皇になってまでも守りたかったものは天皇としての威厳だけだったのか――。この物語は、その彼女が九歳の時からつづる手記のかたちをとった作品です。

[感想]
二度皇位に就いた孝謙・称徳天皇(聖武天皇・光明皇后の娘・阿倍内親王)の幼少期から崩御するまでの一代記。

長屋王の変が起きる直前からスタート。前作『長屋王残照記』から続く形で聖武天皇や藤原家から見た政変の顛末とその後が描かれています。

長屋王残照記』で描かれた元明天皇(阿閇皇太妃)とその娘の元正天皇(氷高皇女)が天皇となる覚悟と使命感が備わった才気あふれる凛とした女性だったのに比べると、阿倍内親王は病弱で気弱だった聖武天皇の気質を受け継いだ危うい女性天皇として描かれています。

父の聖武天皇同様、本人は天皇になるつもりがなかったのに身内である藤原家を中心とする新興勢力によって担ぎ上げられ、政治の表舞台に立たされたことで元からの危うい精神状態がさらに不安定になり、迷走してしまったのかなと。 

 聖武天皇がひたすら仏教に救いを求めたのに対して、娘の孝謙・称徳天皇は男に依存して政治家として暴走してしまった女性天皇として描かれています。

孝謙天皇のときは藤原仲麻呂に、上皇から天皇に返り咲いた称徳天皇のときは道鏡に。とはいっても、この二人と男女の仲にあったとする説は何ら根拠があるわけではなく、そうだったかもという憶測にすぎないようです。 

 光明皇太后と孝謙天皇に寵愛され、絶大な権力を手に入れる仲麻呂。この頃、政治権力は二重構造に。従来からの太政官制度があり、その頂点に立つのは右大臣・藤原豊成。片や仲麻呂と光明皇太后が作った紫微中台の長官(紫微令)に仲麻呂が就任。

仲麻呂は太政官制度内でも大納言の地位につき、さらに孝謙天皇のもとで新しく設定された紫微内相の地位も手に入れ、治安維持軍と国防軍の統率者の地位も手に入れます。 

 そんな中、長屋王の側室・藤原長娥子の3人の息子が仲麻呂に反発して決起するも、事前に謀反が発覚して有力氏族がことごとく流罪や死罪(拷問死)に→橘奈良麻呂の乱。皮肉にも仲麻呂の独裁体制をますます強める結果になってしまったのですね。

 寵愛した男に絶大な権力を持たせた後、彼の浅ましい人間性に気づく孝謙天皇→仲麻呂との対立が激化し、藤原仲麻呂(恵美押勝)の乱に発展。この頃出家した模様。仲麻呂を討ち、皇位に返り咲くと今度は病に伏せたときに看病してくれた道鏡を寵愛して法王にし、一族(弓削家)も大出世。その後、まもなくして称徳天皇が病死。道鏡は地方の寺院に左遷。

 短い間だったとはいえ、絶大な権力を手に入れた道鏡を悪僧としてではなく、称徳天皇を一途に支えた野心がない純粋な人として描いているのが印象的でした。勝者の歴史とは一線を画した見方ですね。

野望に燃える仲麻呂との愛はニセモノだったけど、信仰に裏打ちされた道鏡との愛は本物だったと、その対比を強調したかったのかもしれません。



女帝の手記 5