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2022年6月14日火曜日

池田理代子『皇帝ナポレオン』全12巻ネタバレ感想


作品名 : 皇帝ナポレオン
別題  : 栄光のナポレオン-エロイカ
漫画家 : 池田理代子
出版  : 単行本全14巻 
文庫本全12巻
ジャンル: 歴史
関連作 : ベルサイユのばら
トーン : シリアス
試し読み: 皇帝ナポレオン

[内容紹介]
『婦人公論』1986年5月号~1995年1月号掲載作品。『エロイカ』の題で連載され、単行本全14巻、文庫版全12巻

[あらすじ]
ヨーロッパの英雄、ナポレオン・ボナパルトの生涯を描く。『ベルサイユのばら』の続編的位置付として描かれており、ベルばらのキャラクターたちが登場。天才的手腕でヨーロッパの列強に立ち向かっていくナポレオン。それはフランス革命後、フランス国民が待ち望んでいた英雄の出現だった――!

[感想]
物語は『ベルサイユのばら』から十数年後、革命直後の時代から始まり、一代でフランス皇帝にまで上り詰めたナポレオンの生涯<栄光と没落>を当時のヨーロッパの政治状況を交えてシリアス路線で描かれている。

脇役としてベルばらオリジナルキャラであるアラン、ロザリー&ベルナール夫妻(+幼い息子フランソワ)がナポレオンと大きな関わりを持つ重要な役どころとして全14巻中9巻までレギュラーで活躍している。

アランとベルナールがここまで物語上絡んでくるとは想像していなかったけれども、オリジナルキャラが活躍するエピソードと本筋との絡ませ方は、歴史の流れや本筋を崩すことがないように配慮しながらも、当時のフランスの民衆の思いやナポレオンの考え方などをリアリティを持って伝える役割を果たしている。

ナポレオンの描かれ方は「祖国フランスのために」戦っていた天才軍人が次第に野心家に変貌していく様子が描かれているが、単なる独裁者としてではなく、人間味のある部分や英雄的なエピソードも描かれている。

全14巻の長編。政治と戦争描写がメインで、妻や家族と過ごす描写は少ない。ナポレオン自身がフランスを離れて征服戦争に明け暮れていたので、手紙や束の間の帰還などでしか妻や家族との時間が持てなかったという事実もあるのだろうが、池田さんのナポレオン像に妻や家庭を重視するイメージがなかったのかもしれない。

ナポレオンの内面描写や周囲の人々との関係については、主に戦場や政治の場において描かれている。軍事的天才としてナポレオンがあっという間に兵士から尊敬を集めていく様子。その人気が国中に広がり、皇帝までのぼりつめていくナポレオンをもはや誰も止められなくなっていく様子。その後の転落。度重なる身内の裏切り、身の危険にさらされる日々。

ナポレオンのおかげで出世した兄弟や部下が次々に反旗を翻し、退位を迫られるナポレオン。恩をあだで返され、疑心暗鬼になるナポレオン。そんな中で彼に対して最後まで忠誠を尽くした軍人たちが少なからずいたことにはぐっときた。

この作品では留守を守る妻の働きがほとんど描かれていない。特に最初の妻ジョゼフィーヌは、男を頼って生きるだけの凡人キャラのままで終わっている。史実では女を武器に愛人稼業をしていた奔放なジョゼフィーヌがナポレオンを愛することで一途な女性に変わり、 第一統領夫人、また皇后として民衆から絶大な支持を集め、内助の功でナポレオンを支えたと評価されており、漫画の題材としては、魅力のある女性のはずなのに、この作品では良いところを探すのが難しいほど、魅力に欠けるキャラになってしまっている。

最初の堕落しきったふしだらなジョゼフィーヌの印象があまりに強烈な上、その後の心を入れ替えてナポレオンと心通わせていく様子が表面的にしか描かれていないので、お金目当てのふしだらな女性というイメージを払拭できずじまいな印象。気さくで朗らかな皇后として民衆に慕われた人柄、ナポレオンを支えたと言われる社交の手腕、あるいは、別れた最初の夫や友人の助命嘆願をして監獄に入れられた過去があるなどの彼女の気丈さが描かれていないのが残念。

実際のナポレオンがどうだったのかはわからないが、少なくともこの漫画のナポレオンは好きになった人への愛が希薄な人だったように描かれている。恋愛感情があるうちは女性に一生懸命だが、夫婦愛のようなぬくもりのある愛情は誰に対しても芽生えなかったかのような印象。実際のナポレオンはどうだったのだろう。

恋に落ちたときのナポレオンは盲目的な激しさで女性に求愛し続け、相手を最上級にちやほやして持ち上げるけど、女性の心が自分に傾き始めるとテンションが落ち着き、立場が逆転していく。一度熱烈に愛された女性はそのときのことが忘れられず、ナポレオンに執着してしまうという感じかな?

最初にナポレオンの方が恋愛感情を持って猛アタックして関係を持った2人の女性、前妻ジョゼフィーヌと愛人のポーランド貴族マリア・ヴァレフスカは、ナポレオンが退位させられたとき、迷うことなく彼を援助しようとし、生涯変わらない愛を示し続けたのだとか。二人とも捨てられたのにもかかわらず!

政略結婚でナポレオンが頑張らずとも手に入れた二番目の妻、ハプスブルク家の皇女マリー=ルイーズは、早々にナポレオンに見切りをつけ、あっという間に別の男と関係を持っている。これにはマリー=ルイーズの性格や生まれ育った環境、さらにナポレオン自身の落ち度もあるのかもしれない。前妻や愛人のときと違って、マリー・ルイーズには腫物に触るような接し方をしていたというから。

ナポレオンが妻や愛人に送った手紙が結構残っているらしいのだが、年月が経った後の関係に関しては参考になるものがなかったのか、ナポレオンと3人の女性たちとの関係は馴れ初めを重点的に描いており、その後はさらっと触れるだけで終わっているので、物足りなさを感じた。それぞれの女性との関係が深まるにつれてナポレオンがどう感じていたのか、彼女たちへの想いなども描いてほしかった。


皇帝ナポレオン 1巻


皇帝ナポレオン 2巻
ナポレオンとジョゼフィーヌ


皇帝ナポレオン 7巻
アランが表紙に


栄光のナポレオン: エロイカ









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