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[作品紹介]
『ITAN』(講談社)2010年零号(創刊号)~連載中。第17回2013年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞受賞。第38回(2014年度)講談社漫画賞一般部門受賞。2014年12月テレビアニメ化決定。
[あらすじ]
満期で出所の模範囚。だれが呼んだか名は与太郎(よたろう)。娑婆に放たれ向かった先は、人生うずまく町の寄席。昭和最後の大名人・八雲(やくも)がムショで演った「死神」が忘れられず、生きる道は噺家と心に決めておりました。弟子など取らぬ八雲師匠。惚れて泣きつく与太郎やいかに……!? 昭和元禄落語心中・与太郎放浪篇、いざ幕開け!!
[感想]
何となく読みはじめたらさいご、あっというまに引き込まれた。BL作家さんというのは、ストーリーテラーがやたら多いが、この方も間違いなく、豊かな感性、鋭い観察眼を持ち合わせている作家さんだと思う。少女漫画というのは、スポコンであれ、芸術であれ、その世界のことを深く追及して描きながらも、メインはやはり主人公の涙ぐましい努力の末の成長物語や、その世界に生きる人々の人間関係にスポットをあてたものが多く、こちらの作品もその傾向が強いと思うが、その配分(奥深い落語の世界と内部の人間模様)が絶妙だと思う。
寄席の様子や演目の内容が分かりやすく紹介されており、噺家それぞれの味わい、所作や表情、間の取り方や得意とする演目、声の出し方から細かい演技の違いまで、臨場感をもって、生き生きと描かれているところがすばらしい。
多少、演出が大胆なところがあるが、昭和初期・大戦前後(八雲、助六たちのお話)、高度成長期前(与太郎のお話)の世相なら、主人公にそれくらいの気概があってもいいと思うし、そのキャラクターのおかげで、メリハリのあるストーリー展開になっており、全体を通して醸し出されるノスタルジックな雰囲気が主人公の向こう見ずな性格、豪胆さ、そして、その裏で展開される哀愁の人間模様をすべてを包み込んで、ヒューマンドラマとしても読ませる作品に仕上がっているといえる。特に、師匠・八雲の若かりし頃のお話がせつなくて、せつなくて。友情に恋愛に芸の道。すべて順調にはいかないもので。人間の弱さ、強さ、どっちも描かれているから心に訴えかけてくるものがあるのだろう。