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2012年10月28日日曜日

川原 由美子『前略・ミルクハウス』文庫全6巻あらすじ&ネタバレ感想

作品名 :前略・ミルクハウス
漫画家 :川原 由美子
出版  : 単行本全10巻 文庫本全6巻
ジャンル: 春春 恋愛 人情
トーン : ほのぼの せつない
試し読み: 前略・ミルクハウス

[内容紹介]
『別冊少女コミック』(小学館)1983年3月号~1986年8月号掲載。1985年第31回小学館漫画賞少女部門受賞。1987年に単発テレビドラマ化され、フジテレビ系列で放送された。

[あらすじ]
函館から上京し、あこがれの東京で美大生としての新生活を始めた松本芹香。思わぬなりゆきから彼女が暮らすことになった下宿館――ミルクハウスは、主の菊川涼音、その従兄弟の安原藤をはじめ、個性あふれる魅力的な住人たちで大にぎわい。何かと事件の絶えないあわただしい毎日と、夢と希望にみちた彼らの素敵な物語が始まる…。

[感想]
少女漫画の可愛らしさと人情がたくさん詰まった作品。善良なヒロインとその周囲の人たちとのふれあい、恋模様。彼らがさまざまな悩みや経験を通して成長していく様子が繊細なタッチで時にほのぼのコミカルに、時にほろ苦く描かれていて、とても読み応えがありました。

川原さんの作風には昔ながらの人情と、柔軟で進歩的な考え方、その両方が織り込まれている感じがします。当時の日本人のモラル、女性観、男性像、人間関係、家族のありかたが色濃くストーリーに反映されているけれども、脇役で登場する逞しく生きるシングルマザーや結婚よりも仕事を選ぶ女性など、新しい時代の女性像というようなものも同時に感じさせるんですよね。

まったく面識のない未婚の男女がシェアハウスで暮らすという発想は今の日本でもあまり馴染みがないものですが(実は最近少しずつ増えてるとか?)、この作品に描かれているのは、手に届かないものに対するあこがれみたいなものではないかなぁと。大学進学のために上京したヒロインの下宿先として作者が用意したのは、当時の女子たちが夢見たであろう、あこがれの洋館。80年代の漫画の面白いところは、器は洋式なのに、実際のストーリーは純和風で昭和のご近所づきあい、愛と涙と笑いの人情劇が展開されるところですね。

シェアハウスに越してきたマセガキ小学生のイタズラをたしなめたヒロインが、お尻ペンペンするところなどは、いかにもノスタルジックな昭和の香りが漂います。スカートめくりする子供なんて、今の漫画には出てこないもんなぁw

かと思えば、ヒロインの恋人候補2人が女装趣味の美形大学生と、年下の口下手な男の子という、なかなか斬新な設定。その他にも、シェアハウスの住人には、昼から酒浸りの恋多き女性(ジャズ歌手)や、離婚した大学教授とその息子(上記のスカートめくりが大好きなマセガキちゃん)など、自己主張が強そうな面々ばかりなのですが、どの人も自分勝手かというと決してそうではない。誰かが悩んでいるときは、彼らなりのやり方で思いやることができる、いたわりの心を忘れない人々。ちょっと励まし方が変わっていたり、おせっかいなところもご愛嬌。

この作品には意地悪い人は出てくるけど、人格崩壊した人間は出てこないんですよね。どんなに己が苦しい立場にいたとしても、人を思いやる気持ちを失わない人々にじんわり心が温かくなります。

例えば、ヒロインが何度かデートを重ねたプレイボーイな田代先輩。デートを断れずにヒロインが無理していると悟ったときの対応が格好良かったなぁ。好きな人に格好悪いところを見せたくないという彼のプライドもあるんでしょうが、未練タラタラなのに、それをおくびにも出さないで潔く身を引くところが気持ち良かったです。

気になるヒロインの恋の行方に関しては、意外な方向でしたねぇ。 ヒロインが本格的に恋愛モードに突入するのがやっとこさの⑤巻(単行本では9巻)なのでちょっと駆け足な気がしましたが、最終的に交差していたそれぞれの恋が丸く収まる形になったので、まあ良かったと思います。以下、クライマックスに触れるので気をつけてください。

【ネタバレ注意】

候補二人とも違った良さがあるのですが、藤のわかり易い性格に比べて、涼音は飄々としていて、芹香に対してどこまで本気なのか、ちょっとわかりにくかったです。好意を寄せる芹香に対してさえ、オカマちゃんのようなおふざけをするし、そこが涼音の茶目っ気+ミステリアスな魅力ではあるんだけど、彼の視点でもっと真剣に本心を語るシーンを盛り込んでほしかったなぁ。そうしたら、クライマックスがもっと盛り上がったでしょうね。

涼音はフェミニンなのに、男らしさを失わないところは格別なんだけど、藤のように人一倍優しいのに、ぶっきらぼうで損な性分の男性も捨てがたい。中盤まで藤視点の内面描写が多かったので、てっきり藤と結ばれるのかと思っていたのですが、後半に入り、藤は芹香をめぐる恋愛バトルから脱落し、彼に恋する別の女の子とのサイドストーリーが展開されます。そして、彼に代わって現れるのが芹香の年上の幼なじみの雄作。彼に関しては登場が遅きに失する、というか短すぎて、今ひとつ愛着が沸きませんでした。

一番好きなのは藤ですが、涼音はいつもおどけて本心がつかみにくいけど、裏表がないところが人間として信頼できるし、理想の嫁さんは料理上手で守ってあげたくなるようなタイプと告げる旧態依然とした雄作よりも、柔軟な心の持ち主なので、きっと芹香をのびのびと幸せにしてくれるでしょうね😉


前略・ミルクハウス 1巻





①函館から上京し、あこがれの東京で美大生としての新生活を始めた松本芹香。思わぬなりゆきから彼女が暮らすことになった下宿館――ミルクハウスは、主の菊川涼音、その従兄弟の安原藤をはじめ、個性あふれる魅力的な住人たちで大にぎわい。何かと事件の絶えないあわただしい毎日と、夢と希望にみちた彼らの素敵な物語が始まる…。

②下宿館・ミルクハウスに集まったユニークな住人たち。その騒々しい毎日もやっと落ち着きをみせはじめた頃、今度は芹香に恋人が! 初めての恋に心浮き立つ芹香だが、秘めた想いを胸にする涼音と藤は複雑な心境。そんな中、藤のクラスメート・やよいが現れ、藤の恋人候補としての宣言をし……。喜びと切なさの交錯する、それぞれの恋の行方は――?

③ミルクハウスに突然現れた芹香の弟・卓美…。そして、涼音が偶然出会ってしまった高校の後輩・尚美……。奇妙な再会によって尚美の抱えているトラブルを知った涼音と卓美は、彼女の力になろうと怪しいバイトを始めるが……。優しさとひたむきさを胸に、ミルクハウスの住人たちは今日も一生懸命!!

④いつも元気で面倒見のいい芹香、ひたすら明るい少女少年の涼音、青春の暗い道を独り迷っている藤、大学教授の吉川と息子の勇、失恋上手な歌手・水城……。いつもにぎやかな彼らの暮らす下宿館・ミルクハウスに新しいゲストが現れた! 受験をひかえた藤に恋してしまった、その少女・結衣の登場で、またまたややこしい騒動が……。

⑤涼音の旧友の不思議少女の来訪、芹香に恋した一途な高校生と涼音との攻防、またもやトラブルから逃げて来た卓美や芹香の幼なじみの雄作の登場に、水城と吉川教授の恋の進展と、あいかわらずあわただしいミルクハウス。そこへ涼音のかつての恋人・さやかが現れた。彼女の挑戦的な態度と、いつもと違う涼音の様子に、芹香の心には不安が芽生え始める。そしてさやかの口から聞かされた過去に芹香は……。

⑥さやかと涼音の過去を知り動揺する芹香は、涼音と自分の気持ちすら見失ってしまう。幼なじみの雄作からのプロポーズや、さやかと涼音の危うい関係に、芹香の心は不安と迷いを増すばかり……。そんな中、涼音にドイツへの移住の話が持ち上がり、ミルクハウスに存続の危機が訪れる! 彼らの迎える終幕は、果たして――!? 「夏だったね」「ばいばいストロベリーデイズ」同時収録。



前略・ミルクハウス



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